これは昨年の12月にグアテマラに行った時のものです。
場所は外国人観光客に人気があるパナハッチェル。では、どうぞ。
パナハッチェルは、大きな湖を見渡せるグアテマラ有数の観光地。湖周辺には幾つかの村があり、観光客相手に土産物等を売っている所が多い。
岸の上から湖を見渡すと、遠くにある火山が先ず目に飛び込んでくる。その前の湖面を何艘もの大小の船が行き来している。この風景は、グアテマラ人画家の手によってたくさん描かれている。
そんなある日、僕は同宿の日本人4人とサンアントニオ・パロポという所へ行った。船ではなく、コレクティーボ(乗り合いワゴン)で行く。湖の辺にへばりついたような道路を走るので、湖を見ながら行ける。12月というのに、汗ばむほどの日差しだ。眺めはいい。
サンアントニオ・パロポに着いた。小さな町だった。いや、日本人の感覚から言えば、町ではなく村と言うべきだろう。僕達は湖を見渡せるメインの教会前で降ろされた。早速教会を見学したが、それほど印象に残る所ではなかった。
ここでは民族衣装を着たおばちゃんや子供達が「これ買え、これ買え」と言い寄ってくる。今まで何度もそういう目に遭ってきて、ほとんど土産物を買わない僕はいつもうんざりしていた。けれど、今回は不思議と嫌ではない。言い寄ってくる中にも、どこか控え目なところがあるからだろう。
道を歩いているとオドオドと女の子が寄ってくる。「この民族衣装1ドルよ」えっ、そんな手の込んだ物が1ドル?「うそでしょ」と言うと「ほんとよ。だから着てみて」と言う。そうして着てみると、やっぱり1ドルではなくて、ドンドン適正価格に戻ってくる。観光客に着せてみると、買ってくれる事が多いのだろう。
この村には観光客の目玉となる物がない。だから、ここを訪れる観光客の数は多くはない。同じような物でも、他の所と比べると少し値段も安めだ。
歩いていると小さな店があった。そこから女の人と6歳くらいの女の子が駆け出してきた。女の子が手にしていた手作りのミサンガの束を差し出す。10本くらいの束だ。10Q(ケツアル)と言った。でも僕達はあまり興味を示さなかった。そんなにたくさんいらないしね。
すると傍らの女の人が「5Qでいいわよ。」と言った。それに反応して、仲間の一人が手に取って見る。他で見せられた物より、織り方がしっかりしている。彼は5Q払って買った。
本当に5Qなんだぁ。僕はてっきりまた値段が上がるもんだと思っていたよ。
5Qで買えるんなら欲しかったなぁ。そう思っていたのが顔に出たんだろう。女の人は女の子にもう一つ持ってくるようにと言った。女の子はすぐに店にとって引き返し、もう一つの束を持って戻ってきた。
「あなたも5Qでいいから」女の人が言う。女の子が束を差し出す。僕は喜んで買った。一人ではこんなにいらないけど、誰かのお土産にしてもいいしね。
僕は良い買い物をしたと思った。満足だった。女の子は再び店に戻っていった。そして入口付近の地べたに座って、簡単な道具を使ってミサンガを織り始めた。それを見て、僕の中に衝撃が走った。
先ほどの喜びは消えた。
僕が喜んだのは消費者としての立場からだった。しかし、それは果たして適正価格と言えただろうか?この時のレートは、1ドル=7Qちょっとだった。
という事は、このミサンガの束は1ドルもしない価値だということになる。数を数えてみる。12本あった・・・。
いくらグアテマラの生活水準が低いからと言って、彼女の労働量を考えれば5Qというのはあまりに安いのではないだろうか? フェアートレードの観点から言うと、僕は搾取をしたのではないか?そんな事が頭を駆け巡った。
適正価格って難しい。観光客だと思って、思いっきりボッて来る輩も多い。交渉能力のなさと言ってしまえばそれまでだが、やっぱり高く物を買わされるというのは良い気分はしない。
と言って、値切りに値切って、売るべきかどうかと悩ますのもどうかとちょっと思った。よくやっていた気がするので・・・(汗)。
確かにいくら良い物でも、誰も買ってくれないとお金にはならない。時には現金欲しさに、ほとんど自分たちの利益がないままに売ってしまうこともあるかもしれない・・・。
今回のように5Qだと、どう考えても女の子の労働力に対する報酬は僅かなものだ。時給に直せばいくらだろう? 他の人がこの店で服とか買ってくれていたのがせめてもの救いだった。
女の子は黙々とミサンガを織っている。君なら有名な織り手になれるよ。この年でこれぐらいできるんだから。ほんと弟子入りしたいくらいだ。これくらいできたら、旅の途中でも少しはお金稼げるだろうし。
そんな事を思いながら、店を後にしました。旅に出ると、いつも色々な事を考えさせられます。